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UN DENTISTA

その昔、3歳くらいのときだったか、父の転勤で福岡から東京とは名ばかりのすっごい僻地に引っ越して来た。
出来たばかりの公団住宅で、いちばん近くの歯科までは歩いて1時間近くかかり、何時間も待たされたあげく、しかも子供が泣こうが叫ぼうが怒鳴りつけて治療する…という患者に「様」がついてしまうような昨今では考えられないキョーフの歯医者だった。

さすがにこれはひどすぎる…と次に連れて行かれたのは父の会社のそばのN歯科。開業したばかりの若い先生だが、腕がいいと父の会社では人気の歯医者さんだったそうだ。
オフィス街の雑居ビルに入っていて、近くに勤める会社員を狙った歯科に突如現れた親子連れ。N先生にとっては想定外の出来事だったにちがいない。




子供の目から見てもスタッフに厳しいN先生、学校の休みの時期に行く度、助手さんが入れ替わっていた。患者には丁寧だが必要最低限のことしか話さない、必要最低限の治療以上のことはしない、そんな先生が「はい、お口あけて~。ちょっと痛いかもしれないけど我慢できるかな~」…となるので、私達の治療の時だけは勤め人で混み合う待合室にいつもと違う空気が流れていた。

やがて高校生になり、大学生になっても、学校帰りに行きやすい場所にあったこともあり、歯が痛くなるとN先生のところへ行った。
「ACCOちゃんも、もう高校生かぁ。」
「もっと早く来なきゃ、痛いの我慢しきれなくなってから来たでしょう」…etc.
盆と正月には「え、こんなに休むの?」とつっこみたくなるほど長期で休み、休み明けには真っ黒になって再登場する先生のことを元々「趣味の歯医者」だと思っていたが、この頃になるとさらに趣味度を増したのか、待合室で他の患者さんを見かけることが珍しい見事なスケジューリング技を披露するようになった。この時期から現在まで助手さんは替わっていないので、きっと彼女のおかげだろう。

就職してからも、会社のそばに山ほど歯科はあったけれど、1時間中抜けすれば行ける距離だったのでN先生のところへ行った。
「ACCOちゃんが、自分の保険証持ってくるなんて…」
その後も現在に至るまで、半年に1度のペースでN歯科へ行っているが、相変わらず麻酔の前には「ちょっとチクっとするよ~」と対こどもモードで言われたり、治療の前後には雑談なんかしているので、待合室に戻った時に珍しく他の患者さんがいたりすると、みなさんN先生の別の姿にとまどったお顔をしていらっしゃる。

親の次にお付き合いの長いN先生だが、先生の素顔を知らないことに気づいたのはここ数年のこと。診察室にいる時は必ずオペの時につけるような帽子をかぶって、巨大なマスクをして、唯一露出している目の周りはメガネをかけているし、エイズが出現してからはゴーグルみたいなメガネに変わって、もしかすると助手さんとご家族以外はN先生の素顔を誰も知らないかもしれない…。
その先生が、どんな縁があったのかうかがい知れないが、ある健康をテーマにしたフリーペーパーの歯科相談特集のページの回答者になったのはちょうど1年前のこと。見開き4ページの記事の一番最後に、回答者プロフィールがなんと写真入りで紹介されていた。帽子はつけたままにせよ、ゴーグルもメガネもなし。しかもかわいい笑顔つき!
思わず「長年通ってて先生の素顔、初めて見た…」と言ってしまった私に、助手さんが「実はこの写真気に入っていなくて、取り替えたいらしいのよ」とこっそり教えてくれた。

そんなこんなで最初のキョーフの歯医者以外はN先生以外の歯科医にはかかったことのない私、いまさら今時の歯医者さんはどこに行けばいいのかもわかりません。8020運動を推進するからには私が80歳になるまでは、「趣味の歯医者」でいいのでまだまだN先生にがんばってもらわなくては。あ、趣味なら引退はないか。
by s_fiorenzo | 2006-06-17 13:14 | ECCETERA


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