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小さな本の数奇な運命/アンドレア・ケルバーケル著,望月紀子 訳(晶文社)

小さな本の数奇な運命/アンドレア・ケルバーケル著,望月紀子 訳(晶文社)_d0043369_23302169.jpgAndrea Kerbaker 著、原題はDiecimila/Autobiografia Di Un Libroつまり“10000/ある本の自叙伝”

彼には時間がなかった。
夏のヴァカンスまでの1ヶ月で誰かが4番目の持ち主になってくれなければ、溶かされて「誰も書いてあることを読みやしない」歯磨きの箱かなにかにリサイクルされてしまう。読まれてなんぼの本であるのに。発行されて60年余りの古書としては新参者の部類だが、10刷も版を重ねたうちでの名誉ある初版本なのに!悶々と焦りながらも待つがなかなかその時は訪れてはくれない。

客の来店に気付く度に「買って買って電波」を送り続ける彼。そんなある日、いつの間にか大人買いのための本の山を築いていた客が、彼が電波を送るよりも早く手に取り、棚に戻すことなくラッキーな本たちの山に乗せた。
折りしもこのコレクターの1万冊目=diecimilaにあたるらしい。安堵した彼は語り始める…。

本=libroは男性名詞、この物語の主人公un libro=ある本も男性。最先端のイラスト入りカバーのついた新刊として書店に並んだ日の興奮を思い返したり、生まれて(出版されて)初めて女性の手でページをめくられどきどきしてみたり、古書店に並べられてからもできれば女性客に買って欲しいと思ったり、一緒に並ぶ本を羨んでみたり、批評してみたり…となかなかかわいいやつ。
1938年生まれで、17歳の少年(最初の持ち主)が気に入って繰り返し読むような内容、作者は詩を書いたことがない…などいくつかのヒントはあるが、最後までこの本が何なのかは明かされない。

最初の持ち主が亡くなり、遺品を整理する際に息子たちから「そんなもの」呼ばわりされ古書店に売られたと頃から彼の旅が始まる。
古書店の棚で、2番目・3番目の持ち主の部屋で、ダンボール箱の中で、彼は時代、流行、メディアの変遷を知っていくが、彼は「ぼく=本にはまだ与えることがいっぱいある」と一生懸命誰かが手に取り、買ってくれることを願い続ける。

約70ページの短い小説に対して45項目もの訳註つきだが、ほとんどは彼の仲間に関するもので、本文と訳註を行ったり来たりすることがあまりうっとうしくなく、むしろ楽しいという珍しい本。
作者は古書コレクターにしてテレコム・イタリアの広報担当重役だそうだ。こういう職業の人が「モデムだの、かたつむりだの、SMSだのの時代だが、(本には与えることが)ないなんて言わせない」と書いちゃうのってなんだかいいな。
そんなこんなで手元にある大量の本の一部を売りに出そうと思っていたのが頓挫しそうだ。これだから本ってやつは…。
by s_fiorenzo | 2008-11-11 23:34 | BIBLIOTECA


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