L'UOMO CHE VERRA`/やがて来たる者

d0043369_18533998.jpg
主人公のマルティーナは8歳の少女、Bolognaの南約25kmの山村Monte Sole(モンテ・ソーレ)で暮らす貧しい農家のひとり娘だが、生後間もない弟が亡くなって以来、そのショックで言葉を失ってしまった。
しかし1943年冬、再び母が妊娠し、マルティーナは新しい家族の誕生を待ちわびる。次第に戦争が激化していくなか、1944年9月28日から29日にかけての夜、待望の弟が産声を上げる。
家族の会話、地元の人たちの会話部分はイタリア語字幕入り。

第2次世界大戦=日独伊三国同盟とイメージしがちなので少し整理しておきたい。
同盟は「大日本帝国」「ナチス・ドイツ」「イタリア王国」の間で締結され、「La vita e` bella」をはじめ当時を描いた数々の映画にもみられるように、ドイツ軍はイタリア国内に進駐している。
連合軍がシチリアに上陸し、1943年、連合国に降伏したイタリア王国は同盟を破棄、逆に反ファシストの路線をとり、ドイツに宣戦することになる。当時の統治者ムッソリーニは党内の反ファシスト勢力により幽閉されるが、ドイツに救出され、ドイツの傀儡政府であるイタリア社会共和国(RSI、別名サロ共和国)のリーダーにまつりあげられる。
つまり、1943年以降のイタリアでの第2次大戦はナチス・ドイツ、RSIvs連合国、イタリア王国、パルチザン(民間人による非正規軍)という内戦に近いような状態といえる。

ドイツ側が防衛線を築き、連合国側が突破しては戦場が北上するという戦況は少々強引ではあるが映画でいうと『マレーナ(シチリア)』→『セントアンナの奇跡(フィレンツェ)』→『やがて来たる者』という流れである。
“1944年6月4日イタリア首都ローマが陥落したが、ドイツ軍はイタリア中部に「ヴィテルボ線」「トラジメーノ線」「アルノ線」「ゴシック線」という4重の防衛線を敷き直し抵抗を続けた。しかし、アルノ線まで連合軍の突破を許し、8月11日フィレンツェが陥落した。だが、連合軍はノルマンディー上陸作戦のため一時攻撃を中止し、9月以降ゴシック線で両軍のにらみ合いが続いた。(Wikiより抜粋)” とWiki上ではたった3行で表記されたこの時期の、中部イタリア最後の防衛線「ゴシック線」付近の村が物語の舞台である。
そしてマルティーナの弟が生まれ夜が明けた1944年9月29日から10月5日まで、この土地ではパルチザン狩りを名目に『Strage di Marzabotto(マルツァボットの大虐殺』と呼ばれる虐殺がナチスによって行われ、一般市民約1800人が亡くなっている。この事件については井上ひさしさんが著書『ボローニャ紀行』の中で取り上げており、虐殺を生き残ったパルチザン兵士にインタビューを行っている。

映画の前半部分では、貧しいながらも大家族が助け合って戦時下とはいえ日常生活をおくる様子が丁寧に描かれている。ドイツ兵が食べ物を奪うに近い形で貰いに来たり、パルチザンが捕まえたドイツ兵を林の中で射殺するといった平穏時にはない異常な事態を織り込んで緊張感を与えながら、当時のこの地方では、こんな風景の中、こういう家で、こういう暮らしをしていたのだろうなと映画の世界にスムーズに入っていける。
虐殺を描いた後半は、いとも簡単に次々と無抵抗の人々を殺せる「人間の怖さ」がわざわざ残虐な映像を使わずに淡々と描かれ、逆に戦争の狂気を感じさせる。
マルティーナにとってL'uomo che verrà:やがて来たる者は生まれてくる弟だったのか、ドイツ兵なのか、あるいは肉親をすべて殺されて生き残った幼すぎる姉弟に救いの手をさしのべる者なのだろうか。声をあげることもできないまま、ドイツ兵による虐殺もパルチザンによる殺害も目の当たりにしてしまったマルティーナが、か細い声を取り戻し、弟に子守唄を歌って聞かせるラストシーンが切なすぎる。上映後Diritti監督の「語り継いでいかなければならないことでもあるが、今でも世界中で同じようなことが起きている」という言葉が印象的だった。
今年のイタリア映画祭で8本観たうちのシメがこの作品で、重たい映画だったが映像にも内容にも大満足、日本でも買い手がついたようなので、公開されたらもう一度見たいと思っている。

L'UOMO CHE VERRA`
Martina:Greta Zuccheri Montanari
Lena(母):Maya Sansa
Armando(父):Claudio Casadio
Beniamina(叔母):Alba Rohrwacher

Regia:Giorgio Diritti
2009,Italia


accoinzaghiをフォローしましょう
[PR]
by s_fiorenzo | 2010-05-13 19:21 | FILM | Comments(6)
Commented by ゆ~こ at 2010-05-14 07:22 x
初めまして。
本当に良い映画でした。
こんな素晴らしいレビューを読んで、また思い出してひとり唸ってしまいました。
有り難うございました。
Commented by イタリアかぶれ at 2010-05-14 10:54 x
なるほど!!

しかし語学にとどまらず、勉強されてますね!!!
素晴らしい!!

先日、偶然にも『セントアンナの奇跡』見たところです。
大変勉強になりました。

W杯まであと一ヶ月!!
今回のAZZURRIの前線は寂しいですね^^;
Commented by s_fiorenzo at 2010-05-14 21:49
>Benvenuta!ゆ~こさん
はじめまして、“らびたえ”へようこそ!
素敵なコメントを寄せて下さってとってもうれしいです。
辛いけれど、いい映画でしたね。
観てから約2週間になりますが、
余韻がまだ心の底の方にどっしりと残っています
Commented by s_fiorenzo at 2010-05-14 22:09
>Ciao!イタかぶさん
実はイタばかになるまでは、3つの国は終戦まで同盟だったと思っていたクチなんです。
ボローニャ近郊が激戦地だったことは何年か前のTVイタ語講座で知り、事件のことも上述の本で読んでいたので、間違いなくあの事件の映画で、重たくて辛いだろうと思って躊躇したんですが、観て正解でした。

W杯!!
ALE(とPIPPO)が呼ばれなかったのは残念だけど、
代表に呼ばれたうちの子たちが、恥ずかしくないパフォーマンスを見せてくれたらそれでいいです。
今回も、同じ青いチームでもBLUじゃなくてAZZURRIの応援ですけどね♪
Commented at 2010-06-29 21:39 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by s_fiorenzo at 2010-06-30 16:04
>Ciao!鍵コメさん
コメントありがとうございました。
HPを拝見しましたが、この作品だけでなく魅力的な作品がたくさん、しかも良心的な値段で楽しめる素晴らしいイベントだと思います。ぜひ近隣の映画ファンたちに勧めます。
蒸し暑い季節に準備に忙殺されていらっしゃるかと思いますが、この素敵なイベントの成功を心よりお祈り申し上げます。


<< ガラクタ捨てれば自分が見える―... LO SPAZIO BIANC... >>